夫婦2人の老後のため

東京都文京区のAさんは、8年前、自宅の老朽化にともない建て替えを行った。その時点で家族は夫婦2人と大学生の娘さん。ご夫妻には他に長男のHさんもいる。医学の道に進み、アメリカ留学中という自慢の息子さんである。ところがAさんによれば、「この息子が悩みの種」なのだとおっやる。「留学を終えた後、どうするつもりなのかさっぱりわからないのですよ。日本に帰ってくるというのなら、二世帯住宅でも建てて待てばいいのだろうが、そのままアメリカに残る可能性もあるというのだから」娘さんにはすでに交際中の男性がいる。遠くからず結婚して出ていくだろう。二世帯住宅など建てても、肝心の長男がアメリカ暮らしでは意味がない。そんなことになるくらいなら、最初から「夫婦2人の老後のため」と割り切って、趣味を楽しむ家にしたい。2人とも音楽を聴いたり、映画を観るのが好きだから、思い切ってカラオケも歌えるマルチメディアールームをつくりたい。奥さんが絵を描くためのアトリエもほしい。「しかしねえ、帰ってこないと決まったものでもない。帰国すれば同居してもいいなんて言うこともあるのですよ」それまで住んでいた家はかなり傷んでいたため、いつまでも待っているわけにはいかなかった。まだ元気で、経済的にも体力的にも余力のあるうちに建て替え、安心して老後を迎えたいというのがご夫妻の希望である。さて、どうするか。例のマジックードアで仕切る「二世帯含み住宅」も1法ではある。しかし、Hさんが帰国しなかった場合、サブ玄関やサプーキッチンがまるまる無駄になってしまう。当面は夫婦の趣味の部屋として使い、必要になったら最小限の手を入れるだけで2世帯同居住宅に改造できる方法はないものか。私は日頃の発想を転換することにした。ご承知のとおり、私は本来、外階段否定派である。ひと頃、流行したような完全分離型の2世帯住宅、つまり、外階段を上がったところに2階専用の玄関があるようなプランは極力、避けるようにしている。Bさんの家では外階段を使ってみようと考えた。当面はHさんが帰国しない前提で、普通の一戸建ての家にする。ただし、2階に小さなバルコニーを設置しておくところがポイントだ。このバルコニー経由でも外から出入りできるように、小さな勝手口と外階段をつけておいたのである。弘道さんが帰国し、結婚して同居することになったら、その勝手口を若夫婦専用のサブ玄関として使えるはずだ。バルコニーを別にすれば、後はごく普通の2階である。小さな浴室とトイレはあるが、キッチンはなく、個室が4つと納戸があるだけ。Hさんが帰らない場合は、その1つを主寝室として使い、残りの1つは、娘さんが結婚するまで使う部屋。あとの2部屋を趣味の部屋として使う。一方、Hさんが同居する場合は、親夫婦が寝室を1階の和室に移すことで、2階をほぼ丸ごと若夫婦に提供することができます。

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